使用頻度の低いバイオリンの保管方法や、メンテナンス頻度は?
バイオリンはオーケストラで用いられる楽器の中で最もデリケートな楽器といわれます。温度や湿度に影響されやすく、ちょっとした衝撃でもダメージを受けてしまいます。でも、メンテナンスしだいでいつまでも透き通るような優雅な音色を保つことができます。
ここでは、バイオリンを楽しむ時間がなくて長期保管せざるを得なくなったという方のために、正しいお手入れの仕方と最適な保管環境について説明していますので、ぜひ参考にしてください。
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バイオリンの保管に気をつける理由
バイオリンは全長約60センチ、重量はわずか400gの小さな楽器です。4本の弦を弓で擦るだけでなく、ギターのように弦を指ではじくピチカート奏法もあり、メロディーもリズムも奏でることができます。
また、ビブラートをかけることで演奏者の豊かな感情を表現することができる、小型ながら華やかで魅力いっぱいの楽器です。
バイオリンの本体は木材でできています。1種類ではなく、表板はスプルースが、裏板や側板、ネックにはメイプルが主に使われています。また、バイオリンの中は空洞になっていて、表板と裏板の間に「魂柱(こんちゅう)」という細い木の棒が垂直に立っています。立っているといっても接着されているのではなく、挟めてある状態です。
バイオリンは、弦の振動が表板から裏板へ伝わり、空洞のボディが共鳴することで独特の音色を生み出す仕組みになっています。この振動を伝える役目を果たしているのが魂柱で、文字通りバイオリンの魂(たましい)ともいえる重要なパーツです。
木製のバイオリンは温度・湿度の変化に敏感です。湿度が60%以上あるジメジメした環境に長時間置いておくと、表板や裏板などが膨張して、空洞の幅が変化して魂柱がはずれることがあります。逆に乾燥も大敵で、エアコンの風が当たったりするとパキパキと音がして割れそうになることがあります。
夏場で温度が35度を超えるようなところでは、表板と裏板、横板を接着している膠(にかわ)が融けてしまいます。膠が使われているのは、バイオリンを修理するときに温めることで分解できるようにするためです。そのため、車の中にバイオリンを入れたまま炎天下に駐車しているとケースの中でバラバラになる恐れがあります。同じように冬場の暖房機器のそばも危険です。ヒーターの近くにバイオリンを置いたりするのは厳禁です。
また、バイオリンの形状は曲線で不安定なため、壁などに立てかけておくと倒れてしまい、魂柱がはずれたり、衝撃の程度によっては魂柱がボディを突き破ったりすることがあります。
このように繊細な楽器なので、保管するときは専用のケースに入れて、直射日光が当たらず、温度は25度前後、湿度は50%前後で、年間を通して気温変化の少ない冷暗所を選ぶ必要があります。
バイオリンの正しいお手入れと保管方法とは
バイオリンのお手入れは、「拭くこと」が基本です。拭き方のポイントをあげてみましょう。
弓と弦、本体についた松脂をきれいに拭き取る
バイオリンは擦楽器(さつがっき)と呼ばれるように、弓で弦を擦って音を奏でる楽器です。しかし、それだけでは音は出ません。弓の毛に松脂(まつやに)をつけることで摩擦力を起こして音が出る仕組みになっています。松脂は松の木から採取した樹液を固形にしたもので、塗ると白い粉状になるため、演奏が終わった後は弦と本体に粉が付着しています。松脂がついたままにしておくと固まって取れなくなり音色に影響しますから、松脂がついているところはくまなく拭き取るようにします。
弓は、木でできている棹(さお)の部分を拭いておきます。弓の毛は拭かないで、指で粉を軽くはじく程度にします。バイオリンを保管するときは弓の毛を緩めておきます。
弦は、手垢がついたままにしておくとサビの原因になりますから、松脂の粉だけでなく皮脂汚れも拭き取るようにします。長期保管するときは、弦を緩めると魂柱がはずれてしまうため、チュ―ニング時よりもわずかに緩める程度にします。
バイオリンは楽器用のクロスかメガネクリーナーなどを使って優しく拭きましょう。タオルのような毛羽落ち(細かい繊維が抜け落ちること)する布でゴシゴシ拭くと、傷をつけたり楽器のすき間から毛が入り込んで不具合をきたすことがあります。
ニスもきれいに拭いておく
バイオリンの表面はニスでコーティングされています。ニスは、汗や皮脂汚れなどが木材にしみ込むのを防ぐとともに、外部からの衝撃でキズがつくのを防ぐ保護膜の役目を果たしています。また、バイオリンには家具などに塗る合成樹脂のニスではなく、音響効果や耐久性、美観に優れた天然樹脂のニスが使われています。いつでも美しい音を出せるようにしておくにはニスをよい状態に保つことがポイントで、そのためにも「演奏後は必ず拭く」ことが鉄則です。長期保管する際もきれいに拭いておきましょう。
楽器全体の状態をチェックする
バイオリンは肩とあごで挟んで持ちますから、あご当ても汗や皮脂で汚れます。あご当ての下にはホコリがたまりやすいので、こうした箇所もていねいに拭いておきましょう。4本の弦を支えている駒(ブリッジとも呼ぶ)は、弦の振動を表板に伝える役目を果たす、魂柱と同様に重要なパーツです。この駒の位置がずれていたり傾いていないかを確認し、もしずれや傾きがあるときは元に戻しておきます。
全体を確認したらケースにしまい、前述したように冷暗所で保管します。家庭では押入れやクローゼットに保管することになると思いますが、そうした場所でバイオリンを長期間眠らせておくのは好ましくありません。とくに高温多湿の日本では、夏場は押入れの中は湿度が70%以上にもなり、バイオリンが変形したり、弦がサビたりする恐れがあるからです。
バイオリンの保管に最適なトランクルームとは
自宅に適切な保管スペースを確保できなという場合は、トランクルームの利用を検討してみましょう。トランクルームには屋内型や屋外型、宅配型などいろいろなタイプがありますが、屋内型・宅配型のトランクルームであれば、温度や湿度が常にコントロールされているサービスが多いため、安心してバイオリンを預けておくことができます。
トランクルームを運営する会社は、「倉庫会社」と「不動産賃貸会社」の2つに大別されます。両方ともトランクルームと呼ばれていますが、正式には倉庫会社が運営するものを「トランクルーム」、不動産会社が運営するものは「レンタル収納スペース」といいます。それぞれの特徴をあげてみましょう。
倉庫会社によるトランクルームの特徴
トランクルームは、国土交通省の倉庫業法に基づいた認可がおりている倉庫を指します。認可を受けた業者には、その証として「優良トランクルーム」のマークが与えられます。●契約の形態
利用者が事業者に荷物を預けて保管してもらうもので「寄託(きたく)契約」という形態になります。●保管環境
事業者の所有する倉庫内で、空調設備が完備し、年間を通して適切な温度と湿度が保たれています。●防犯設備
監視カメラが設置され、スタッフが常駐しているか警備会社のセキュリティシステムを導入しています。●保管方法
荷物の出し入れをするときは、そのつど手続きと費用が必要で、実際の作業は事業者立ち会いのもとに利用者が行うか、事業者の手で行います。●利用時間
出し入れ時には事業者の立ち会いを必要とするため、運営会社の営業時間内に限られます。●荷物の補償(賠償責任)
事業者が荷物の管理に関して注意を怠らなかったことを証明されない限り、賠償責任を負うものと定められています。利用者の梱包の仕方が不完全だったり、自然劣化によって生じた損害については対象外です。不動産会社によるレンタル収納スペースの特徴
国の規制はありません。「一般社団法人レンタル収納スペース推進協会」に加入し、安全・安心な保管施設として協会から承認されると「RS推奨マーク」を与えられます。●契約の形態
利用者が事業者から保管スペースを借りて自分で荷物を管理するもので、「賃貸借契約」の形態になります。●保管環境
空調設備が完備していて一定の温度・湿度が維持されています。●防犯設備
トランクルームと同様に警備会社のセキュリティシステムを導入しているところがほとんどです。ビルのエントランスのキーはカード式で、利用者以外は出入りできないようになっています。●保管方法
利用者が自分で出し入れ作業を行います。事業者が立ち会うことはありません。●利用時間
24時間、365日自由に利用できるところが多いのですが、年末年始は利用できないところもあります。●荷物の補償(賠償責任)
事業者には賠償責任はなく、損害が発生したときは利用者の自己責任が原則です。以上のように運営会社によってサービス内容が異なります。また、その中でもトランクルームごとに細かいサービスや料金が大きく異なってきます。
バイオリンのような高価でデリケートな荷物を預けるときは、よりクオリティの高いトランクルームを選ぶようにしましょう。
まとめ
木でできているバイオリンは呼吸しているといわれます。私たちが心地よいと感じる温度・湿度がバイオリンにとっても快適な環境なのです。
いつか時間の余裕ができてバイオリンを弾きたくなったとき、元のきれいな音色を奏でることができるよう、保管の仕方には細心の注意を払いたいものです。もし、メンテナンス方法や保管場所についてわからないことがあるときは、楽器店に相談するようにしましょう。
また、保管場所に悩んだ際は、最適な保管環境を保つことができるトランクルームの利用も視野に入れてみると良いでしょう。